世界のリーディングホテルVOL82 フォーシーズンズホテル グレシャムパレス ブダペスト Four Seasons Hotel Gresham Palace Budapest
週刊ホテルレストラン 2014年10月24日号掲載
世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。
ブダペスト中心部を流れるドナウ川に、ひと際美しい橋が架かっている。街のランドマークである「くさり橋」だ。その橋の広場に「Four Seasons Hotel Gresham PalaceBudapest」の壮麗な宮殿が建っている(以下、FS/GP)。ハンガリーにおけるアール・ヌーヴォー様式の傑作と言われ、当初はロンドンに本拠地とするグレシャム生命保険会社の建物として、1906 年に完成した宮殿である。戦後の共産主義圏の時代には荒廃しアパートとして使われていたが、民主化後の2001 年に宮殿はフォーシーズンズホテルによって買収され、徹底した修復を経て、2004 年にブダペストで最高のホテルとして華麗なドアは再び開かれた。
ブダペストは“ドナウの真珠”とたたえられる美しい街だ。ドナウ川を挟んで、王宮の丘がある歴史的な「ブダ」と国会議事堂のある商業地区の「ペスト」が統合されたハンガリーの首都である。ハンガリーは東方からヨーロッパに移動して来たマジャール民族が建てた国で、東洋系言語を持つ欧州では特異な国と言える。ブダペストの観光ポイントである「王宮の丘」から、ドナウ川に架かるくさり橋の向こうにグレシャムの宮殿がはっきりと確認できる。
FS/GP は17 室のスイートを含む全179 のゲストルームはいずれも贅沢な空間と間取りを持つ。グレシャムパレスの歴史を記した銘板のあるエントランスを抜け館内に入ると、丸天井に優雅な曲線を生かした美しいアール・ヌーヴォー様式の空間に目を見張る。特に二羽の孔雀の彫像をモチーフにした鉄細工は見所の一つで、ロビーにある“Peacock Passage”と呼ばれる「The Bar & Lobby Lounge」にもそのモチーフが見られる。筆者にアサインされた部屋は「Gresham Room」で、約45m²の広さがあり、ステップアウト・バルコニーを備えたグレシャムパレス様式の客室だ。メインダイニング「Gresham Restaurant」は、ハンガリー&イタリア料理に評判が高い。ホテル最上階には「TheFour Seasons Spa」を用意し、歴史ある宮殿によくぞ設置できたと感心するほど、近未来的フォルムのスイミングプールが話題を提供している。
FS/GP の建物は1987年、ドナウ川岸にあるほかの建造物と一緒に「ブダペストの歴史地区」として世界遺産に登録されている。また改修に当たっては、実に5年の歳月をかけ、大きな階段やステンドグラス、モザイク模様、鉄細工などを含む当初の景観が復元された。歴史の要衝に立地し、多くの職人の努力の賜物として蘇った昔日の優雅さと、21 世紀の快適さを兼ね備えた貴重なホテルと言えよう。
筆者 小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健(株)代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。
※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel