世界のリーディングホテルVOL54 マリーナベイサンズ Marina Bay Sands
週刊ホテルレストラン 2013年8月30日号掲載
世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。
これほどユニークな建築物が過去にあっただろうか? 超高層ビルを3連に並べ、そのトップに船をイメージした長大な屋根を載せて連結した奇想天外な構造を成している。地震国日本にとって建築基準法での認可は到底ありえないが、羨ましいほどの自由奔放な発想である。また、ユニークな建築ゆえに、これほど多彩なマスメディアに注目されたホテルも珍しい。例えば、日本のある携帯電話会社が人気アイドルグループを出演させたTVコマーシャルで多くの話題をさらったことは記憶に新しい。
ホテルの名はマリーナベイサンズ。瞬く間にシンガポールの新しい観光名所に躍り出たホテルだ。米国の建築家、モシェ・サフディ氏の設計によるもので、タワーI・II・IIIと3つの超高層ビルを屋上で連結した構造を持ち、それぞれのタワーは最高部で57階建て、200mの高さがある。ラスベガスのカジノリゾート運営会社、「Las Vegas Sands Corp」によって開発され、単独では世界最大級のカジノを中心に2560室の高級ホテル、巨大なコンベンションホール、ショッピングモール、シアター、美術館などを含んだ壮大な複合リゾート施設となっている。なかでも屋上にある空中庭園「Sands SkyPark」は最大の人気スポットだ。船の甲板をイメージした1ヘクタールに及ぶ大きなもので、シンガポールの市街を見渡す展望台がある。隣接して屋上インフィニティープールがあり、手摺が隠れて境がなく、いまにも市街地に落ちてしまいそうな仕掛けだ。地上200mの高さにあるものとしては世界最大級の野外プールとして話題を集めている。
マリーナベイサンズはシンガポールのマリーナ地区に2010年4月に開業した。筆者にアサインされた部屋は「The Club Room with Ocean View」のカテゴリーで約50m²の広さを確保している。タワーIIの35-49階の高層階に位置し、57階にある専用クラブ「The Club at Marina Bay Sands」のアクセス付きで様々のベネフィットが楽しめる。55階のタワーIにバンヤンツリー・スパが、同階タワーIIにはバンヤンツリー・フィットネスがあり高評価を得ている。レストラン・バーはファインダイニングからカジュアルスタイルまで、数えきれないほどの店がゲストの旺盛な要望を満たしている。その他、カジノやシアター、ショッピングモール「The Shoppes at Marina Bay Sands」等はホテルと直結していて利便性が高い。モールの地下3階にはベニスの水路が再現されゴンドラに乗って遊覧できるなど、一日ではホテルの全貌がつかめないくらいの多彩な施設群である。
マリーナベイサンズの開業によって、シンガポールを訪れる観光客の流れが変わったと言われる。かつてはオーチャードロードを中心に発展してきたが、最近はマリーナ地区に集客力が高まって来ている。宿泊や料理の質を主体としたホテル本来の姿で考えれば、2500室を超える巨大ホテルではそのホスピタリティーには限界が生じよう。しかし、テーマパーク的な宿泊と割り切れば話題に事欠かない快適な高級ホテルと言える。
筆者 小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健(株)代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。
※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel