世界のリーディングホテルVOL16 マンダリンオリエンタル、ダラデヴィチェンマイ
週刊ホテルレストラン 2012年1月27日号掲載
世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。
これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。
初めてここを訪れる人は必ずや、“タクシーが間違って寺院に連れて来た”と戸惑うほどの寺院建築が立ち並ぶ豪華ホテルだ。棚田“ライステラス”をメインガーデンに据えて衝撃的デビューを飾ったフォーシーズンズリゾートに遅れること10年、マンダリン・オリエンタル、ダラデヴィ(以下MO/DD)がより鮮明なコンセプト“古都チェンマイ”を掲げて2005年にこの地に開業した。
24万2000m²の広大な敷地はリゾートと言うより一つの村の大きさで、かつ郊外ではなく市内住宅地に出現したホテルとしては例がないであろう。リゾート内は自転車の貸し出しもあり、これなくして敷地全体を見て回ることは不可能に近いくらいの広さだ。チェンマイ旧市街は正方形の堀に囲まれ、幾百もの寺院がランナータイ王朝の建築様式で建立されている。MO/DDはその広大なホテル敷地内に主要施設や客室パビリオンをすべて寺院建築で表現し、ガーデン中心部には稲作田“ライスパディ”を配置した壮大な舞台装置の感がある。それはまさに“古都チェンマイ”そのものを、リゾート内に凝縮し具現化したコンセプトと共に設計者の強い意志が伝わってくるようだ。
MO/DDは60エーカーの敷地内に70近いヴィラ棟を含む全123室のスイート・ゲストルームを擁している。また、フレンチレストラン「Farang Ses」、上海邸宅を模した中国料理「Fujian」、ランナー王朝のタイ料理「Le Grand Lanna」をはじめ7つのレストランとバーがあり、どれも非常に質の高い本格的ダイニングで楽しめる。ホテル自慢のスパ「The Dheva Spa」は古代マンダレーの宮殿をイメージした特徴的デザインで、実に18のトリートメントルームを有し最高峰のアーユルベーダを受けられる。その他、20軒以上が並ぶショッピングビレッジ「Kad Dhara」、膨大な蔵書のライブラリー「Jum Sri Hall Library」、フィットネスセンター、2つのスイミングプール、2つの広大なボールルーム、料理アカデミー、カルチャーセンター、キッズクラブなど数え切れないほどの施設をゲストに提供している。前述したようにこれはもう一つの村の規模であり、驚くのはすべての施設が寺院建築で表現されていることである。
MO/DDの「村であり街」全体が美術品の収集や文化活動などを通じて、タイ北部ランナー王朝文化の保存に貢献している様子が感じ取れる。当然ながら膨大な人員のスタッフを抱えるが、トップのマネージメントクラスから水田で草むしりをしているスタッフまで、ホスピタリティーの概念を良く理解している。広い園内を歩いていると巡回している馬車の御者が乗らないかと気軽に声を掛けたりする。欧州からのゲストが多いと聞くが、トンボが戯れ案山子と水車が回る水田に王朝寺院の建物が映える風景は、欧米人が夢見る東南アジアの桃源郷を忠実に再現したものと言えるのかも知れない。
筆者 小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健(株)代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。
※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel