世界のリーディングホテルVOL52
マンダリンオリエンタル・ワシントンDC Mandarin OrientalWashington DC

週刊ホテルレストラン　2013年7月26日号掲載

世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。

　マンダリンオリエンタル・ワシントンDC（以下、MO/WDC）は、この地における高級ホテル群とはひと味違うユニークな存在だ。ほとんどのホテルは国会議事堂からリンカーン記念館に至るナショナルモールの北側エリアにあるが、唯一、モール南側地区のポトマック河畔近くに立地している。また建設された土地も面白く、鉄道が通っている本来ある土地の上に覆いをかぶせた形状の人工地盤上にホテルはある。したがって、付近はいわゆる再開発地区にあり新築の建物が整然と建てられている。当然ホテルも新しく、重厚な歴史的建物が多いワシントンの高級ホテルとは一線を画し、コンテンポラリーでスタイリッシュな雰囲気を持っている。

　MO/WDCはポトマック河畔、タイダルベイスン地区の“全米桜祭り”「National Cherry BlossomFestival」に間に合わせて2004年の春3月にオープンした。ホテル裏手は高台になっており、広大な芝生のガーデンからは桜並木の続くポトマック河畔の一部が見渡せる。正面エントランス側はワシントンの官庁街の南端に位置し、合衆国農務省や印刷局（造幣局）といった省庁と接する。7階にあるクラブラウンジのテラスからは整然と並ぶ各省庁のビル群の向こうにワシントン・モニュメントが見渡せ、その印象的な姿に感動するであろう。

　MO/WDCは53室のスイートを含む全400室のゲストルームを擁す大型ホテルだ。客室は官庁街のシティービューとポトマック河畔のウォータービュールームに大別される。筆者にアサインされた部屋は「Tai Pan Club Water View Room」で、約40㎡の広さがあり、Tai Pan Clubへのアクセス付きである。“Tai Pan Club”とは「大班倶楽部」と書き、ホテル最上階2フロアがクラブフロアとなっている。いわゆるクラブベネフィットのすべてが利用でき、かつ高層階で眺望も良いのでお勧めしたい客室だ。レストランも充実しており、モダン・アメリカ料理の「C i t y z e n 」、アメリカ南部郷土料理の「Sou'Wester」、そして美しい芝生の庭園に面したラウンジ「Empress Lounge」がある。スパではお馴染みの「The Spa at Mandarin Oriental」があり、スイミングプールや禅リラクゼーションエリアを含む8室のトリートメントルームを用意している。

　首都ワシントンを代表する多くの高級ホテルは世界各国からの外交団使節を受け入れている。前述したように、その多くはナショナルモール北側エリアのやや緊張感を漂わせるフォギィボトムやジョージタウン地区に集中する。そんな中、MO/WDCは美しい芝生の庭園からポトマック河畔の桜並木やジェファーソン記念館の白亜の殿堂が見渡せ、ゆったりとした時間が流れる。首都ワシントンでは他に例のないアジアンテイストとアーバンリゾート的雰囲気を併せ持つ貴重なホテルと言えよう。

筆者　小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健（株）代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。

※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel

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