世界のリーディングホテルVOL38　ザ・ペニンシュラ香港　The Peninsula Hong Kong

週刊ホテルレストラン　2012年12月28日号掲載

世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。

　これほど、その土地とホテルがあらゆる方面で密接に繋がった関係は、他に類を見ないであろう。香港を訪れた人なら誰しも、九龍半島の先端にそびえる壮麗なコロニアル建築に目を奪われるに違いない。車寄せには最新のロールスロイスが並び、正面玄関の両脇を2頭の獅子像が見守るエントランスでは、おなじみの白の制服・制帽のページボーイがにこやかにゲストを迎え入れる。ザ・ペニンシュラ香港は、この香港・九龍の土地と不可分の関係であり、まさに“香港のシンボル”と言えよう。

　九龍側サイドのホテル建設はユダヤ系イラク人であるカドゥーリー兄弟の、「スエズ運河より東で最高のホテル」を建てることで始まった。当時としては破格の200万ドルの巨費と7年の歳月を費やし、1928年12月11日にペニンシュラ香港の開業を迎えることになる。既に多くの商業ビルや官庁が集まった香港島ではなく、まだ田園地帯の続く九龍半島の発展の礎がここに始まり、後世の目覚ましい尖沙咀の開発ラッシュに結びついて行くのはご承知の通りである。（ペニンシュラの母体である「香港上海大酒店有限公司」については本誌Vol.25、ペニンシュラ上海編で詳述）その後のペニンシュラは増大する顧客数に対応するため、1994年に30階建てのタワーウィングを新設して、香港のランドマークホテルとしての地位を不動のものとしている。

　白手袋のページボーイにドアを開けてもらい、一歩館内に入れば天井や列柱に繊細な彫刻が施されたネオ・クラッシック様式のエントランスホール「The Lobby」に目を奪われる。この優雅な空間でアフタヌーンティーを味わうために、世界中から観光客が列をなしているおなじみの光景だ。また、クラシカルなホールの華やかさを損なわぬ配慮から、コンシェルジュやレセプションなどの事務系デスクは奥まったスペースに配置している。館内のレストランについては、香港のランドマークとして長年にわたって愛されてきたフレンチダイニング「Gaddi's」、ノスタルジックな雰囲気のオールデイダイニング「The Verandah」など個性あふれる九つのレストラン・バーで楽しめる。「The PeninsulaSpa」ではトリートメントのほかフィットネスやスイミングプールの施設があり、旧館屋上にあるプールのテラスからは香港島の圧倒的な超高層ビル群を見渡すことができる。現在、ホテルは客室の大規模リノベーションの最終局面にあり、コンテンポラリーなデザインで新装なった客室が期待される。

　ペニンシュラホテルズのオーナーは創業以来「カドゥーリー家」が占め、現在は5代目のマイケル・カドゥーリ―氏であり、運営だけではなく“ホテルの所有”を是とする基本姿勢を今も維持している。2003年のSARS危機で香港のホテル業界が大打撃を受けたときも、ペニンシュラは一人の従業員も解雇しなかったという。その土地の風土、文化に根ざしたホスピタリティーは今も脈々と受け継がれている。

筆者　小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健（株）代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。

※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel

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