週刊ホテルレストラン HOTERES WEB

  • TOP
  • ホテル&レストラン
  • 業界コラム
  • ホテルビジネスなんでも相談
  • バイヤーズガイド
  • HITS
  • ホテレス電子版
  1. 世界のリーディングホテル

世界のリーディングホテルVOL10 ザ・ウィラード・インターコンチネンタル ワシントンDC

週刊ホテルレストラン 2011年10月28日号掲載

世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。
これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。

 今から150年前の幕末、米国海軍「ポーハタン号」ではるばる太平洋を越えて合衆国首都ワシントンにたどり着いた一行がいた。幕府による日本初の外交使節、世にいう万延元年の遣米使節団で、日米修好通商条約の批准書交換のために派遣した使節団である。このとき米国側が提供した宿泊施設が開業間もない「ウィラード・ホテル」、現在のウィラード・インターコンチネンタルであった。ホテルの前はちょんまげ姿のサムライを一目見ようと連日群衆が集まったと言われる。

 実に気の遠くなるような歴史を刻んで来たホテルだ。ウィラードの創業は1818年に「Joshua Tennison's Hotel」としてこの地に開業したホテルを、50年にヘンリーとエドウィン・ウィラード兄弟が買収し、「Willard's City Hotel」の名前でオープンしたことに始まる。現在の12階建ての建物は1901年に竣工したが、60年代に多発した人種差別暴動による治安悪化で首都ワシントンは荒廃し、68年には営業を停止した。86年になってホテルはインターコンチネンタルの資本参加を経て営業を再開し、同時にオフィスビル「The Willard」をホテルに同化するようなデザインで新設している。当初より多くの国賓やVIPを受け入れ、リーマンショック時の2008年にはウィラードで第1回緊急首脳会議(金融サミット)が開催され、日本の麻生首相も滞在している。

 このように長い歴史を持つホテルだけに逸話も多く残っている。ワシントンの中枢に位置するため多くの政治家、官僚たちがウィラードを利用していたが、同時に政治活動家や陳情者たちもロビーで待ち構えていた。当時のグラント大統領に取り入ろうとしたブローカー達を、彼が「ロビイスト」と呼んだことからこの言葉が広まったと言われる。また「ピーコック・アレイ」の由来は、豪華に着飾った紳士淑女たちの回廊を行き来する姿が、孔く 雀じゃくのようだったことからこの名が付けられた。

 ウィラードは41室のスイートと335室のゲストルームを擁し、グリル「Occidental」、オールデイダイニング「Cafe du Parc」、メインバー「Round Robin Bar」、スパ「Red Door Spa」、ビジネスセンター、トレーニングジムなど充実した施設を誇る。レセプションやコンシェルジュの対応も大変心地よく、また客室にある電話機の操作に“Instant Service”というボタンがあり、ちょうど部屋に不具合があったので押してみると、数分で係りの者がやって来てすぐに解決してもらった。これはアメリカの大型ホテルとしては驚くべきことである。ホスピタリティーの理念が充分生かされていると感じた瞬間だ。

 隣接するオフィス棟「The Willard」前の広場にはカフェやレストランが並び、また市内観光の2階建てバスの発着場所にもなっており多くの観光客でにぎわっている。まさにウィラードはワシントンのランドマークホテルであり、これからも合衆国首都の華として語り継がれることであろう。

筆者 小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健(株)代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。

※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel

詳細をご覧になりたい方はPDFファイルをダウンロードしてください。

ついに公開!ホテレス電子版 年間8,000円で!過去1年分の記事が読める!キーワードの検索もできる!トライアル版は無料!

世界のリーディングホテル連載一覧

  • 小原康裕