「私が働いたアメリカのホテル」奥谷啓介
2012.01.10
第三十八回 「企業は人なり」のアメリカ的解釈
“People make a difference” これは、私がホテル業界に入ったばかりのときに出会った社訓のひとつ。1984年当時のウエステインホテルズのC.E.O.ハリーマルキン氏がダイレクトリーの中の挨拶で使っていたものだ。日本語に訳すならば、「企業は人なり」となるだろう。当時の私の解釈は、「スタッフが頑張ればホテルが変わる」というものだった。だが、アメリカで長く働いているうちに、その考え方は変わることになった。
アメリカ企業はトップダウン制を敷いている。そこは、高いポジションに就いている者がリーダーシップを発揮して、部署を自分が正しいと信じる方向へ引っ張って行く場。つまり、高いポジションにいる者の能力によって、その部署のパフォーマンスが大きく変わることになる。
アメリカのホテルでは、マネージャー職につく者と、そうでない者の仕事への姿勢が明確に別れている。マネージャーを目指さない者は、割り切りが強く、自己を犠牲にしてまで会社に尽くすことはない。また、楽観的な国民性ゆえ、仕事にたいする粘りもない。「これは仕方がないことだ」で、あっさりとあきらめてしまう。こうした環境下で、オペレーションを強化するためには、システムを構築することが大切だ。だから、“アメリカのホテルのオペレーションの善し悪しはシステムで決まる”と言っても過言ではないと私は確信している。そして、すばらしいシステムを構築できる者は、深い経験を積んだ優秀な人材だ。それが理由で、ホテルは高いお金を払って有能な人材を雇うのだ。逆に言えば、高いお金を払わないと、有能な人材を得ることは難しいということになる。
一方、日本のホテルでは、とびぬけた給与を取る者はいない。ドナルドトランプ氏が、プラザのマーケティングのトップとして、ウオルドルフアストリアから引き抜いた私の元上司は、当時、30代で30万ドル以上の年収を取っていると言われていた。それは、なにもホテル業に限ったことではない。日産とソニーのトップは共に外国人で、昨年の年収は8億円台だったが、日本人のサラリーマン社長では、最も高い年収を取得している人でも2億円台にとどまっていることからもわかる。
アメリカのように、より多くの給与を求めて人が動く社会でないということが一番の理由だが、日本で高給取りが生まれない理由の一つには、トップダウン制でないから、トップの能力がアメリカほど大きく会社の命運を左右しないということも挙げられる。さらに、ホテルを見れば、スタッフ個人の優劣に大きく左右される日本式のオペレーションでは、システムを熟知している経験豊かな人材の必要性は薄くなる。ならば、高い給与を払い優秀な人材を引っ張る必要性も強くならない。
だが、アメリカで事業展開を始める企業は、こうした違いをしっかりと認識することが必要だ。日本式の考えをそのままアメリカに持ち込み、優秀な人材を確保するのにお金をかけることを無視するならば、成功する可能性は低くなる。アメリカは日本よりもはるかに、People make a difference.がものを言う国なのだから。
奥谷啓介オフィシャルサイト http://okutanikeisuke.com/



