「私が働いたアメリカのホテル」奥谷啓介
2011.03.23
第三十五回 Job DescriptionとEvaluation
「仕事でなにが一番大切なことなのか?」私はニューヨークのプラザで働いているときに、よくこのことを考えた。「寝ている時間をのぞいたら、オフィスにいる時間のほうが家で過ごす時間よりも長い。だから、オフィスがつまらない場所であれば、君達の人生はみじめなものになる。そんなことがあってはならない。」いくつも心に残る“格言”を上司から聞いたが、これが最も意味深いものとして私の記憶に残っている。考えてみると、オフィスは正にそれを基本に動いていた。
まず、絶対的に大切なことは、オフィスにいる人達がみんな仲良く働けること。その環境を造りあげるために、仕事を個人個人に分けて、複数で一つの仕事をさせないようにする。これを“Job Description”と呼ぶ。それが人々の意見の衝突を避けると同時に、「あの人が怠けるから私が忙しくなる」というような不平不満が起こることを防ぐ。個人の仕事が明確だから、他人のペースにあわせて、自分の労働時間が長くなるという状況も生じない。これが無駄な労働時間を省く。
次に大切なのは「会社は正当に評価してくれていない」という不満を防ぐこと。正当な評価をするためには、一人一人の仕事内容を明確にして、客観的な評価が下されるようにしなければならない。Job Descriptionが個人の仕事内容を明確にし、その出来高を“Evaluation”と呼ばれる、いわゆる“通信簿”で評価する。Evaluationは、客観性を持たせるために、数字で作成される。その数字は自分で出して上司の承認を得たものだから、あとから文句のいいようがないものになっている。
給与に満足していることもとても大切。そのために、ほとんどのスタッフをマネージャーとして採用して少数精鋭軍団を造りあげる。残業代を必要としないマネージャーを最低限の数だけ採用することで、人件費を浮かして生産性をあげる。そして、その分、成績のよいマネージャーの給与を増やす。彼らの成績を明確にしているものはJob Description とEvaluationだ。
部署全体で高いパフォーマンスを保ちながら、みんなが楽しく働ける職場を造る方法として、アメリカの組織は、みんなで手をつないで走るのではなく、各自が自分のゴールを目指して走るようにした。手をつなげば、両腕を振れなくなって全力疾走はできなくなる。また、のろい同僚にたいして「あなたがいたから負けたんだ!」という不満が生じることにもなる。
私はプラザで働いた10年間で、オフィスに行くのが嫌だと思った日は一日もない。他の同僚達も笑いを絶やすことなくいつもいきいきと働いていた。そうした余裕が好感をもたれるサービスを生みだすことは言うまでもない。それはJob Descriptionと Evaluationがあることでつくりだされたものだった。
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